厚生労働省が毎年9月の老人の日に発表する100歳以上の高齢者の数は、51年連続で過去最高を更新中です。
100歳以上を百寿者、105歳以上を超百寿者、110歳以上を「スーパーセンチナリアン」と呼びます。
日本では2020年の国勢調査の結果を見ると、百寿者は約8万人いますが、超百寿者は6515人と百寿者の8.2%
まで減り、さらにスーパーセンチナリアンは141人、超百寿者の中のわずか2.2%です。
このことから105歳超えに大きな壁があります。この壁を超える人たちの特徴がそれが分かれば
老いにくく元気に生きるヒントを得ることができそうです。
スーパーセンチナリアンの最大の特徴は、100歳時点でも日常生活の自立が保たれており、百寿者の中でも
特に健康寿命が長いことにあります。
この健康長寿モデルともいえるスーパーセンチナリアンの医学的特徴は３つあります。
①認知機能が保たれている
100～104歳で亡くなった人と105～109歳で亡くなった人、110歳以上まで長生きした人の100歳時点での
認知機能を比べると、スーパーセンチナリアンの認知機能が最も高いことが分かりました。
高齢になっても認知機能が保たれている人ほど長生きの可能性が高いのです。
②心臓血管病になりにくい
もともと百寿者は動脈硬化が少ないと言われていました。そこで血液バイオマーカーを調べると、NT-proBNP
（神経内分泌因子）の血中濃度が低いほどスーパーセンチナリアンに到達する可能性が高いことが分かった
のです。NT-proBNPは心不全の診断にも使われるもので、心臓の働きが悪くなると数値が上がります。
心臓の働きが悪くなると腎臓の機能も低下します。また、糖尿病や高血圧が適切に治療されずに腎臓が弱ると、
心臓にも負担がかかるという悪循環があります。
通常は加齢とともにNT-proBNPの数値が高くなりますが、スーパーセンチナリアンはその上がり方が
緩やかです。心臓や血管の老化が特に遅いのです。
③フレイルになるのが遅い
フレイルとは加齢に伴って歩行速度が落ちたり、握力が低下したり、疲れやすくなったりするなどして体が弱り、
外出する気力も低下して心身の活力が衰えた状態のことです。要介護の原因ともなります。
超百寿者やスーパーセンチナリアンは、こうした状態になる前の健康寿命を長く保っています。
それでは生まれ持った資質の影響はどれほどあるのでしょう。
寿命に対する遺伝の影響は25パーセントほどで、残りは環境によるものと見られています。
この少ない遺伝子の中で現在分かっている情報は、百寿者にはAPOE4という遺伝子を保有している人は少ない
ということです。
APOE4はアルツハイマー病のリスクが高まる遺伝子です。
ただし数は限られますが、百寿者の中にもAPOE4を持っている人はいます。特に高学歴の人は、APOE4の
有無と長生きの程度との関係が薄いという報告もあります。若い頃から学ぶ姿勢を持ち、社会に出てからも
仕事で頭を働かせる習慣があることで、APOE4を持っていても認知機能が低下しにくくなった可能性が
考えられます。
寿命には後天的な要因の方が大きいということは、長生きをしたければ、認知機能を低下させない、
血管を老化させない、フレイルにならないといった点を意識して生活することがカギになります。
生活で気を付けておくべきことは何でしょうか。
まず身体活動が多い人は長生きの傾向があります。85歳以上で元気な人たちは7割ぐらいが散歩を普段
していて、体操やストレッチなどをする人もいます。何も運動をしていない人に比べ、意識して運動している
人ほど死亡率は低下しているのです。
食事の面では、DHA（ドコサヘキサエン酸）やEPA（エイコサペンタエン酸）の摂取量が多い人ほど、
下肢の運動機能が保たれているといいます。
DHAは脳や神経組織の機能を高める働きがある成分、EPAは血栓をできにくくする血液サラサラ成分として
知られます。サバやイワシなどの青魚に多く含まれるn-3系脂肪酸です。DHAやEPAを積極的に取るのは
よさそうです。
加えてたんぱく質の適度な摂取も重要です。85歳以上の高齢者からスーパーセンチナリアンまでの幅広い
年齢層の調査で、高齢になっても血中のアルブミン濃度が高い人の方が長生きすることが明らかになって
います。アルブミンは血中のたんぱく質で、高齢者のアルブミン濃度が低下すると、フレイルになりやすく
死亡率も高くなります。
若い頃は中性脂肪が増え過ぎないようにした方がいいですが、高齢になればそうしたことよりも、筋肉量を
維持するために肉や魚、植物性たんぱく質を食事できちんと取り、血中のアルブミンを高く保った方が
健康長寿を期待できます。
またスーパーセンチナリアン、百寿者など元気で長生きな人には、医学的な特徴だけでなく性格にも外交的な
人が多いこともわかっています。
100歳にもなると、周囲に同年代はほぼいなくなります。だからこそ、年齢が離れた人とも親しい付き合いが
できる人は社会とのつながりを持ち続けられるのです。
人と会い話すこと、出かける先があることなどで身体活動も脳の活動も増えます。
つまり、認知機能の低下やフレイルを防ぐことにつながるのです。
一つ一つは細かなことですが、これらの積み重ねが元気な長寿を迎える秘訣なのです。
スーパーセンチナリアンとまではいかなくとも、充実した老後を迎えられるよう、今から準備するのも
悪くないですね。
