「身体を大きくするために肉を食べる」、当たり前のように言われていたこの言葉が今後覆されるかも
しれません。近頃菜食のアスリートが増えているのをご存じでしょうか。
プロのマウンテンバイクライダー、池田祐樹さんは菜食主義を公表しています。
池田さんは山林でのハードなトレーニング前の朝食には全粒粉パンにフルーツ、ナッツ類、フムス
(豆のペースト)などが並びます。池田さんは海外のレースで優勝経験を持ち、17年まで7年連続で
マウンテンバイクマラソンの世界選手権の日本代表に選ばれています。
池田さんがこの菜食「プラントベース」の食事法に出会ったのは14年の春でした。ジャンクフード好き
だったチームメートがベジタリアンに転向し、体の調子が良くなったので勧められたのがきっかけでした。
喘息や花粉症に悩まされていた池田さんは半年間の完全菜食生活を始めました。
乳製品好き、ラーメンや焼き肉が口にできない生活に不安を覚えましたが、3か月もすると喘息や
花粉症の症状がなくなり、体のむくみが取れました。同年春には米国の100マイル(160キロ)レースで
初優勝しました。
動物性食材を食べていたころと比べて体重は3キロ、体脂肪も約2%落ちましたが、ハードなトレーニングを
2~3日こなしても疲れが残らなくなったそうです。
菜食のアスリートについては、米動画配信大手ネットフリックスでドキュメンタリー映画も公開されました。
「ゲームチェンジャー スポーツ栄養学の真実」という映画の中ではNFL選手や総合格闘家など
10人以上の菜食アスリートに密着し、運動能力や健康への影響を検証し「スポーツ栄養学において最大の誤りは
動物性たんぱく質への過信だ。」と語られました。サッカーアルゼンチン代表のメッシらそうそうたる
アスリートが菜食であることも明かされました。
日本でも広まりつつあります。インスタグラム上に、菜食を実践するアスリートが集うアカウント「ベンジャーズ」
が開設され、池田選手ら10競技以上の選手が発信しています。
16年リオデジャネイロパラリンピック競泳代表の一ノ瀬メイ選手もその一人です。オーストラリアを拠点に
する一ノ瀬選手はチームの栄養士と相談し、競技上必要な1日100g以上のタンパク質を豆類などで補っています。
心拍数が上がりにくくなり、筋肉量や体脂肪率は今までで一番良い数値が出るようになったそうです。
スポーツ栄養学における菜食の研究はまだ黎明期です。19年ラグビーワールドカップで栄養コンサルティングを
公認スポーツ栄養士を担当した橋本玲子さんは「生活習慣病を予防するなど健康面のメリットは大きい一方で
筋肉やパフォーマンスにどのような結果が出るかはまだ結論が出ていない」と言います。
1日100gのタンパク質や ビタミンB12、鉄分などを植物性食品だけで摂取するには食品をかなり気を付けて
選ばないと栄養が不足し、力が足りなくなる可能性があります。それでも菜食の世界に飛び込んだアスリート
たち。菜食の可能性はどこまで広がるのか注目したいですね。